兵庫県芦屋市に住むソプラノ歌手の田中郷子さん(31)ら大阪音楽大学(大阪府豊中市)の卒業生が母校に働きかけ、カンボジアのプノンペン大学にあるホールにグランドピアノの寄贈を実現させた。内戦終結から15年を経てなお、現地には公共の場で使用できるピアノがほとんどなかった。田中さんは「このピアノが、日本とカンボジアをつなぐ存在になれば」と期待を寄せている。
田中さんは兵庫県立西宮高校に非常勤講師として勤めるかたわら、チャリティーコンサートなどを通じてカンボジアの隣国ラオスの子供たちにリコーダーなどの楽器を贈る活動を続けており、一昨年には仲間とともに、現地でステージや歌の指導を実施。この活動を知ったカンボジアのJICA日本センターが協力し、一昨年12月にはプノンペン大学内のカンボジア日本人材開発センター多目的ホールでコンサートを開いた。
このホールは音響が非常に良いにもかかわらず、備え付けのピアノがない。そればかりか、カンボジア国内の公共施設で使えるグランドピアノは、プノンペン王立芸術大学が所蔵する1台きりだと聞いた田中さんは、「自分たちで何とかしたい」と音大時代の仲間14人に呼びかけて「カンボジアへピアノを贈る会」を結成。母校に相談し、西岡信雄理事長がヤマハ製グランドピアノを寄贈することを快諾した。
西岡理事長は「ピアノは音楽文化にとって、いわばインフラのような存在。何よりも喜んでもらえるだろうし、とても意義深いことだと考えた。これをきっかけに、両国の交流の機会ができれば、本学の学生の刺激にもなるだろう」と話す。
ピアノの初披露となった先月13日、同ホールで開かれた「日本カンボジア友好55周年記念公演フレンドシップコンサート」には、田中さんら日本人5人と、カンボジア唯一のテノール歌手、クオン・セティサッククさん、フルート奏者のヒム・サヴィさんが出演。日本の歌やオペラ・アリアなどを演奏し、会場を埋めた約400人の聴衆から、盛んな拍手が起こった。カンボジア人演奏家の2人は「この楽器のおかげで、自分たちのやりたい音楽ができる」と感激していたという。
田中さんは「カンボジアの音楽家と共演をしていると、音楽への真摯(しんし)な姿勢など、私たちが学ぶことも多く、今後も現地でコンサートを続けたい」と話す。さらに「医療や地雷の撤去など日本側から“してあげる”交流だけでなく、このピアノをきっかけに、音楽を通じた“対等な”交流をしていきたい。いつかはカンボジアから演奏家を呼び、日本で披露する機会もできれば」と夢を語った。